7月句会結果発表
兼題の部(百日紅)
作 品 互選 選者選 都道府県 作者
63開け放つ留守の方丈百日紅14岩手県素 風
12百日紅撫でて寛解告げる朝10大分県輝 久
26棋士の手の止まりし時間さるすべり9兵庫県毬 藻
50人づての母の暮しや百日紅7岡山県原 洋一
15くすくすと笑ふ少女や百日紅7滋賀県幸 亀
44江ノ電の駅にはみ出す百日紅6神奈川県たかほ
45百日紅映す鏡台拭きにけり6東京都水谷博吉
75診療の窓べにやさし百日紅6栃木県北原八重子
14遠き世の戦火を今に百日紅5山梨県辻 基倫子
17百日紅揺れて定まる町の景5大阪府藤井あつこ
24黄昏の帳にほのと百日紅4愛媛県海 猫
23ひと日ずつ空を染めゆく百日紅4愛知県コタロー
49百日紅昔この家に三姉妹4兵庫県三木信雄
85百日紅石切る音の曲がり来る4静岡県渡邉春生
73碧天の白さるすべり退院す3大阪府椋本望生
38ささやかな日々の暮らしや百日紅3静岡県彗 星
10百日紅立札にある中国語3静岡県指田悠志
30泣くまいと決めしあの日の百日紅3大阪府辻本四季鳥
54海見ゆる領事旧廷百日紅3神奈川県風 神
60誰もゐぬ公園広し百日紅3埼玉県イレーネ
65百日紅まだまだ続く子の休み3千葉県須藤和子
81しろさるすべりお百度を踏む起点とす3神奈川県りゅう
1風無くもほろほろ零る百日紅2千葉県えだまめ
25新婚のメッカは廃れ百日紅2宮崎県黒木寛史
33差す紅に濃い薄いあり百日紅2埼玉県夜 舟
36百日紅母の気配のそこかしこ2広島県山野啓子
37夕風にささやくごとく百日紅2静岡県えいちゃん
43百日紅シーツ三枚よく乾き2茨城県申 女
48夫病んで叱らぬ誓い百日紅2千葉県こごめ草
51百日紅玄関脇の壺に傘2栃木県垣内孝雄
57蒼穹に手を差し伸べる百日紅2兵庫県紀州鰹節
58濁世にも長居してをり百日紅2千葉県光雲2
61波音の誘ひくる道百日紅2愛知県み う
71故郷の空の広ごり百日草2北海道水野幸子
4参院選公約虚しく百日紅1北海道北美三風
5少女にも物想う刻百日紅1神奈川県遠野アルヒ
11こぼれくる悟りの窓の百日紅1石川県翡翠工房
19菩提寺にあの人の影百日紅1東京都吉田いつし
20拳あげフェスタの熱気百日紅1埼玉県桜 子
21百日紅初めて御目に友の妻1栃木県北あかり
28百日紅木肌美人の花自慢1静岡県松永信介
29虫踏まず助ける若者百日紅1千葉県山 月
32終業式終へて賑やか百日紅1京都府花 子
35月跨ぎ向こう三軒百日紅1大阪府順 紀
39両の手に散ること止まぬ百日紅1東京都小石日和
40葉擦れ音のやはらかきかな百日紅1東京都ぽっぽ
52決戦は伝統同士百日紅1神奈川県横坂 泰
59百日紅テノール響く朝勤行1神奈川県毬 栗
66街路樹の百日紅平和通りかな1愛媛県牛太郎
72百日紅遠き記憶を語る母1神奈川県岡崎梗舟
79さるすべり紅より白の方が好き1神奈川県とん子
82長谷寺の階段きつし百日紅1神奈川県佐藤けい
83百日紅海辺に近き並木道1神奈川県秋山由美子
84散り花を掃く甲斐もなし百日紅1東京都浩 平
86元気出せ奮い立てよと百日紅1千葉県文 武
自由題の部
作 品 互選 選者選 都道府県 作者
132打水や風の生まるる石だたみ15東京都水谷博吉
251落蝉のいのち抜けたる重さかな10広島県一 九
97生ビール太き指もつ男たち9静岡県指田悠志
95渡し舟待てば矢切の草いきれ9神奈川県阿部文彦
194海開き岬に古りし遭難碑9埼玉県桜 子
257禅寺の渡る回廊蝉しぐれ9神奈川県秋山由美子
99遺言は海へ散骨雲の峰8大分県輝 久
113夏木立絵筆をすすぐ水の音7兵庫県毬 藻
130かき氷けふも少女らよく笑ひ6茨城県申 女
138蛍の夜好みの酒を二合ほど5栃木県垣内孝雄
233河童忌やかがんでくぐる蜘蛛の糸5神奈川県毬 栗
146星祭ひらがな書きのねがいごと5神奈川県毬 栗
159キャンプの火消えて星降る上高地5神奈川県岡崎梗舟
186墓参り母へ日傘を傾けて5大分県輝 久
215初蝉の短く鳴きて黙りけり5神奈川県ひろし
192サーカスのピエロの葬や梅雨深し4岐阜県近藤周三
96島影の如く雲浮く瀬戸夕焼け4大阪府日野かぐや
105村の子に習ふ麦笛旅芸人4岐阜県近藤周三
106病葉は先を急がず流れゆく4東京都吉田いつし
107蝉時雨耳に千段立石寺4埼玉県桜 子
110白鷺や己が色知る水鏡4愛知県コタロー
118鬼子母神柘榴の花のあかあかと4大阪府おくむらかよん
123童らの顔中で食ぶ西瓜かな4広島県山野啓子
137きのふとは違ふ度忘れして溽暑4岡山県原 洋一
139人に馴れ車にもなれ夏つばめ4神奈川県横坂 泰
169ビル街の片陰選りて弁当屋4神奈川県佐藤けい
224涼しさや大の字に寝る里の家4岡山県原 洋一
247別々の空に育ちて終戦日4大阪府椋本望生
220暑き日やじつと動かぬ風見鶏3神奈川県ドラゴン
230貝風鈴海の匂ひの風を呼ぶ3愛知県牧 子
100ひと切れの冷やしトマトの嬉しさよ3東京都浦上三九郎
102スニーカーで闊歩してをり浴衣の子3滋賀県幸 亀
103大夕焼背負ふ赤子の泣き止まず3神奈川県みぃすてぃ
111ベランダの空の狭しと大花火3愛媛県海 猫
122幼子のギャング気取りのサングラス3大阪府順 紀
145蟬しぐれ杜の緑を震はせて3千葉県光雲2
148網を掛け夕焼のしずく落としけり3愛知県み う
152月見草母の形見の長襦袢3千葉県須藤和子
158花茣蓙に小さき2人の寝顔かな3北海道水野幸子
170車窓より紫陽花を見て海を見て3神奈川県秋山由美子
195夕端居手早き老の夕餉かな3栃木県北あかり
199夏燕田を打つ雨のしぶきかな3宮崎県黒木寛史
204水着跡去年の恋も癒えぬまま3大阪府辻本四季鳥
211閉塞の中の自由や水中花3静岡県えいちゃん
212くちなしの香り動かぬ闇の奥3静岡県彗 星
222口小言肩で抗う日焼けの子3千葉県こごめ草
226空港の別れはさらりソーダ水3神奈川県横坂 泰
239大利根の流れ悠久雲の峰3千葉県須藤和子
252献花待つ白き扇の列長し3滋賀県鶴亀鈍
90枝豆や夫と従兄は戦後論2滋賀県百合乃
88兄弟で揃いの浴衣遠き日々2千葉県えだまめ
98産寧坂とろりと下る夜の秋2石川県翡翠工房
101隣来ぬ夕陽まみれの鮎提げて2山梨県辻 基倫子
116眼の手術決心鈍る大暑かな2千葉県山 月
117夏鴎コンパス持たぬ恋もあり2大阪府辻本四季鳥
133告げられてストロー噛みしソーダ水2神奈川県ドラゴン
141炎昼やビル群白く燃え上がり2神奈川県風 神
151水を打つ地球防衛隊のごと2兵庫県ケイト
155花道に色悪の笑み夏芝居2奈良県魚楽子
157コインランドリーぐるぐる夜の秋2秋田県不知飛鳥
160棟上げの臍に飛び込む夏の雲2大阪府椋本望生
176手花火の消えて女の顔暗し2大阪府森 佳月
180鵜かがりに紅をきらりと綱さばく2新潟県しーしー
201天蛾(すずめが)の骸(むくろ)も入れて掃かれけり2神奈川県ひろ志
217青楓釣鐘型の華頭窓2茨城県申 女
219夕焼のとばりを裂きて大型機2東京都水谷博吉
223捨てられぬ父の愛した夏帽子2兵庫県三木信雄
225月凉し居間の網戸をとほる風2栃木県垣内孝雄
236ひと言は飲み込んでさあ冷そうめん2三重県déraciné
238推しのいる日々輝いて星祭2兵庫県ケイト
242ブルーインパルス万博の夏2奈良県魚楽子
245夕されば打ち水をして隣家にも2北海道水野幸子
249夏暁や生きる証のごみ一つ2栃木県北原八重子
260泣きながら喰らふ氷菓や負け試合2千葉県文 武
89残さるる登山バッジや夏果てぬ1大阪府森 佳月
121葉に透ける空はモザイク蝉時雨1神奈川県みちを
124出し抜けの水鉄砲に高き声1静岡県えいちゃん
125出迎へはかかし十頭山の家1静岡県彗 星
126主待つ家の底紅咲き継げり1東京都小石日和
131到着の飛機に溢れる日焼け顔1神奈川県たかほ
135ナビに無き道に出にけり熱帯夜1千葉県こごめ草
142みはるかす青田眩しき米所1奈良県よっこ
143子の目見てさとす父の背雲の峰1愛知県牧 子
147帰省子や嵐のように直ぐに去る1埼玉県イレーネ
161バタ足の飛沫浴びせて孫速し1千葉県美 保
162夏山の青い空気を深く吸ひ1栃木県北原八重子
163北陸の空色淡し土用凪1鹿児島県青 猫
164銀翼の昼月を突く夏の空1広島県一 九
165夏座敷秘密話しの難しき1滋賀県鶴亀鈍
168梅雨じめり涙じめりの喪服干す1神奈川県りゅう
171緑陰や搬入待ちの十トン車1東京都浩 平
172象さんも蟻さんもゐる大緑陰1静岡県渡邉春生
173蜩や諸行無常の西の空1千葉県文 武
174竿石の文字の苔の香ゆだちの香1大分県晴田そわか
175雲の峰憂きこと暫し忘れをり1千葉県えだまめ
179勾玉の渦燃えにけり蚊遣香1神奈川県遠野アルヒ
183お接待所涼風めくる書込み帳1大阪府日野かぐや
189山梔子の香に艶めける狭庭かな1滋賀県幸 亀
190万緑や生命を紡ぐとき来たり1神奈川県みぃすてぃ
191あふさかのこんな町中蝶蜻蛉1大阪府藤井あつこ
193「鐘の鳴る丘」枕辺に聞く夏の風邪1東京都吉田いつし
198田植てふ一仕事あり退勤す1愛媛県海 猫
200さるすべり納骨堂の避雷針1兵庫県毬 藻
203安青錦(あおにしき)回しに映える向日葵や1千葉県山 月
205蜘蛛の囲は雨の揺りかご雨降れば1大阪府おくむらかよん
207板敷を全て片付け夏布団1埼玉県夜 舟
209白粉に涙の筋や鉾の稚児1大阪府順 紀
213素麺来て佃煮送るお中元1東京都小石日和
216ひまわりも凹む地球は沸騰中1埼玉県豊 楽
228風揺らす緑の中のハンモック1神奈川県風 神
234重箱にちよこんと鎮座鰻食ふ1埼玉県イレーネ
237啼き渡る星無き夜を不如帰1岩手県素 風
240琉球の玻璃の小皿よ水羊羹1愛媛県牛太郎
253遠花火景気上向くかもしれぬ1神奈川県とん子
255白南風や帆柱登り磨き上ぐ1神奈川県りゅう
258風に乗り青筋揚羽風木立へと1東京都浩 平
261だうだうと母艦揺るがすいなさ鳴く1大分県晴田そわか
7月句会選評 選者:草の花俳句会 同人会 服部 満

≪兼題の部:百日紅≫

★人づての母の暮しや百日紅

 今は母と遠く離れた土地に暮らす作者。母も既に一人暮らしかも知れない。電話や手紙でやり取りする際には、
高齢の親は子供には「大丈夫だよ」「元気だよ」としか言わないものです。しかし母の身近の人からは、母の寂
しさや不自由さも洩れ伝わってくる。作者は、揺れる百日紅の花に母との遙かな日々を思い出しているようです。

◎くすくすと笑ふ少女や百日紅

 百日紅の名は、盛夏の頃から百日もの間咲き続けるというので生まれた。和名のさるすべりは、木肌がつるつ
るしていて猿でも滑りそうだと言うところから出ている。破顔一笑ではなく、声をひそめて笑う少女。どんな事
情かは読み取れません。しかし、猿滑りという名付けの滑稽さに通じる密やかな愉悦があったのでしょう。

◎碧天の白さるすべり退院す

「白さるすべり」を配したことで、清々しい一句となりました。病院の庭に咲くさるすべりを仰ぎながら今日は
退院。よく晴れた青空に揺れるさるすべりが祝うように咲いている。「退院す」のキッパリした下五が、作者の
喜びをよく表しています。きっと予後も順調なことでしょう。

≪自由題の部≫

★生ビール太き指もつ男たち

 昭和の頃の大ジョッキには、とてつもなく大きなジョッキがあったのを思い出す。ジョッキの把手を握る手の
指がみな太いという。どんなグループなんだろうと想像するだけで楽しい。「生ビール」と太い指、この意外性
が面白い。きっと全員豪快な飲みっぷりでジョッキを干すのでしょう。

◎渡し舟待てば矢切の草いきれ

 矢切の渡しは、東京都葛飾区柴又と対岸の千葉県松戸市下矢切の間の江戸川を結ぶ渡し。桟橋に辿り着くまで
はやや急ぎがちだったが、舟を待つ段になって気持ちも落ち着くと、炎暑に燃えた周囲の夏草のむせるような匂
いに気づいた。句からは作者のそんな気持ちの推移が読み取れます。

◎打水や風の生まるる石だたみ

 暑さが一段落した夕方、いっそうの涼を求めて門前の石畳の路地に水を撒く。立ち上る涼しさが、ほのかな風
とともに作者を包む。涼を言うのではなく、作者の立つ石畳から風が生まれたという把握が上手い。石畳から風
とともにひんやりと涼感が立ちのぼる感覚があります。


        
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